あるじの小言

「あるじの店」(BAR Virgo)や洋酒(特にウイスキー)、スコットランド、まれに赤坂について書いています。

 NASは止まらない!

barvirgo2014-07-24

NAS(No-age-statements)、年数表記が無いという意味ですが、スコッチウイスキー業界では今後しばらくこのNASのウイスキーが増え、年数表記されるウイスキーに対して占める割合も相当増えると予測されています。
これはウイスキーの需要が伸びているからで、嬉しい話ではあるのですが、困った話でもあるのです。
ウイスキーが売れる、当然各メーカーは需要に応えるべく供給量を増やす、その結果2007年から2012年の5年間で、スコッチウイスキーの9年以上熟成している原酒のストックが25%減少してしまったそうです。
スコッチウイスキーの場合モルトにしてもブレンデッドにしてもその多くが「10年」、「12年」、もしくはそれ以上の年数がつけられたものが販売されているので、9年以上熟成原酒が25%も減ってしまったという事は、それだけ「10年」以上の年数をつけたウイスキーを造る事が困難になっているという事なのです。
ウイスキー業界、スコッチに限らずバーボンやジャパニーズもそうですが、需要がこれほどの勢いで伸びるとは原酒を仕込んでいる時点では想像出来ていなかったって事なんでしょうね。
っていうか、ある程度の伸びを予想しても、過去にウイスキー不況と呼ばれる時代もあったので、ウイスキーが売れるようになってきたとはいえ簡単に生産量を増やせなかったというのもあるようです。
何しろ1980年代から90年代前半のウイスキー不況では沢山の蒸溜所が閉鎖や休止に追い込まれていますからね。
また醸造酒と違ってウイスキーは仕込んでからスコッチで最低3年は熟成させないとウイスキーとは呼べませんし、じゃあ3年熟成させたらそれで直ぐ製品化出来るかというと、それも結構難しいし、「3年」ってリリースしてもウイスキーだとそんなに若いのと言われてなかなか消費者に買ってもらえませんしね。
とは言っても現在の需要の伸びは凄いので、スコッチ業界も一生懸命生産量を増やしてはいますが、先にも書いた通り直ぐに仕込んだ原酒は使えないのです。
なので「10年」、「12年」といった年数表記をしたウイスキーを造るのが難しくなり、NASのウイスキーがどんどんリリースされるようになって、しばらくの間はそれが主流になるんじゃないかとも言われています。
それとNASは年数表記はありませんが、だからといって凄く若い原酒ばかりで出来ている訳ではないんですよ。
確かに10年未満の若い原酒も使っていますが、20年近くやまたそれ以上熟成させた原酒も使ってあったりするのです。
だから実はブレンダーにとっては年数表記が無い方が、より良い原酒を選べて使えるので、年数表記のあるウイスキーより良い物が造れると喜んでいたりもするのですが、同じ会社でも造り手と売り手考え方が違うというか、営業からすると年数の無いウイスキーを売るのは難しいそうです。
というのも、今まではスタンダード商品だと年数表記が無く、プレミアム品になると年数が付くというウイスキーが結構あったからです。
皆さんがよく知っているウイスキーだと「バランタイン」あたりですかね、スタンダードが「ファイネスト」、価格も手頃なウイスキーです。
そしてその上に「12年」や「17年」等があるのです。
なのでウイスキーそのものの味わいが凄く良くても、NASになるとウイスキーの質も落ちたと消費者に思われがちで営業的には売るのが少し難しくなるそうです。
とはいえそうせざるを得ない現状で、これからもっと増えるであろうNASを、年数は付いていないが良いウイスキーなんだよという事を皆さんに認知して貰わないと、折角伸びてきたウイスキーの需要が止まってしまうんじゃないかという心配もあるんですよね。
そんな訳で今後はもっとNASのウイスキーが増えると思いますが、年数が付いていないからといって安いウイスキーだと思わず、先ずは飲んで頂きたいと思います。
そして気に入ったら飲めば良いし、気に入らなかったら飲まなければ良いんじゃないかと思います。

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