あるじの小言

「あるじの店」(BAR Virgo)や洋酒(特にウイスキー)、スコットランド、まれに赤坂について書いています。

鹿児島蒸溜所巡り ~7~

f:id:barvirgo:20201102125335j:plain:right:w380さて、本坊酒造マルス津貫蒸溜所のウイスキー蒸留塔内の見学です。
蒸溜塔に入ってまず正面手前に見えるのがハイブリットスティル、単式蒸溜器と連続式蒸溜機が組み合わさった複合蒸溜機ですね。
この蒸溜機では、ジンなどのスピリッツを製造しているとの事でした。
そしてその奥には旧蒸溜塔内に展示してあった1969年から1984年まで使用していた容量500リットルの小型ポットスティルがあり、こちらは現在また使用を再開し、ウイスキー造りではないそうですが、焼酎の原酒と地元鹿児島産のボタニカルを使ったスピリッツを造っているとの事でした。
で、一番奥にまだ真新しい三宅製作所製のポットスティル2基が鎮座、上の写真でいうと手前が初溜釜で奥が再溜釜、容量は初溜釜が5,800リットルの再溜釜が2,700リットルだそうです。
そして製造についてはこの日製造担当の方がいらっしゃらなかったため詳しくは聞けなかったのですが、この時使用していたモルトはクリスプ社製で1回の仕込みは1.1トン、発酵に掛ける時間はおよそ90時間、得られるモロミのアルコール度数は7~8%で、これが1回目の蒸溜で約20%となり、そして2回目の蒸溜で約70%、でこれを加水して60%で樽に詰めているそうです。

ちなみにこの動画はあるじが見学していた時で、1回目の蒸溜がもうすぐ終わるところという事で、中に見えているのがポットエール(蒸溜残滓)だそうです。
蒸溜中のポットスティルの中を見たことはスコットランドの蒸溜所ではいまだなく、これは三宅製を使っている日本の蒸溜所ならではの光景かもしれませんね。
あと製造に関して詳しいことはあまり伺えなかったのですが案内をして下さった方がとても良い方で、詳しくないなりにも知っている内緒の話などもしてくれて、初めての見学としては充分満足出来ました。
f:id:barvirgo:20201102131356j:plainそれに現在コロナの影響で見学を止めている石蔵樽貯蔵庫を中には入れないのですが正面のシャッターを開け中を見せてくれたのも嬉しかったです。
蒸溜工程を見るのももちろん楽しいですが貯蔵庫、それも本来焼酎メーカーとして使っていた石蔵で熟成させている様子が見られたのは貴重で、本当にありがたかったです。
f:id:barvirgo:20201102134124j:plain:left:w270f:id:barvirgo:20201102132200j:plain:right:w270そして見学の後は蒸溜所の隣りにある本坊家の旧邸「寶常」へ、あるじは車を運転しているのでジュースを頂きましたがヨメは・・・
なんかそんなに色々良いのかってぐらいご馳走になり、本坊酒造マルス津貫蒸溜所の見学を終えたのでした。

鹿児島蒸溜所巡り ~6~

f:id:barvirgo:20201102130927j:plain:right:w380さて、本坊酒造マルス津貫蒸溜所の見学です。
まずは受付けを済ませ、津貫蒸溜所のシンボルタワーでもある旧蒸溜塔に向かいます。
といっても受付けの隣りですが、この中には1956年(昭和31年)に設置、1970年代前半まで稼動していた連続式蒸留機、スーパーアロスパス式精製酒精蒸留装置が残されていて、上部まではハッキリとは見られないのですが、それでも凄い蒸留機を使って焼酎を造っていたのが窺い知れ、本坊酒造って凄い焼酎メーカーなんだということに気が付きました。
f:id:barvirgo:20201102124526j:plain:left:w270f:id:barvirgo:20201102124109j:plain:right:w270最近は比較的コンパクトな連続式蒸留機を見る機会が多かったので、その迫力には本当にビックリしたのと、ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所にあるカフェ式連続蒸溜機を見た時の事も思い出しました。
そして旧蒸溜塔内には本坊家についてや本坊酒造の歴史についてのパネル、また1969年から1984年まで使用していた容量500リットルという小型のポットスティルなども展示されていました。
f:id:barvirgo:20201102124732j:plain:left:w330で、これらを見た後は現在稼動しているウイスキー蒸溜塔へ移動、ウイスキー蒸溜塔内に入ると正面に幾つかの蒸溜設備が見えますが、まずは入ってすぐ左の壁に掲げてある岩井喜一郎氏に関するパネルがあるのでそれを読ませて頂きました。
岩井喜一郎氏といえば大阪の摂津酒造にいらっしゃって、日本のウイスキーの父と呼ばれるニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝氏がスコットランドで学んだウイスキー造りについて記した通称「竹鶴ノート」を受け取った方で、このノートが基で本坊酒造ウイスキー造りが始まったといっても過言じゃないと思っていたので、岩井氏のお嬢様が本坊家に嫁いだというのは知っていましたが、その辺の詳しいことも知りたいと思い、このパネルは読ませて頂きました。
蒸溜所を見学する時、あまり細かい数字まで気にすることはないと思いますが、歴史的背景などは知るようにすると、その蒸溜所のお酒(あるじ的にはウイスキー)を後々飲む時に役に立つというか蒸溜所の想いなどがお酒から感じられ、そのお酒がより美味しく感じられるような気があるじはするんですよね~・・・
という訳で、本坊酒造ウイスキー造りに対する想いというのは知ってはいましたがより理解を深め、いざ蒸溜塔内の見学本番です。が今日はここまで、この続きはまた後日・・・

鹿児島蒸溜所巡り ~5~

f:id:barvirgo:20201102134124j:plain:right:w300さて、鹿児島蒸溜所めぐり嘉之助蒸溜所の次に訪れたのは本坊酒造マルス津貫蒸溜所、現在の蒸溜所は2016年に再建されたものだがウイスキー蒸溜所としての歴史は古く、1949年(昭和24年)には鹿児島のこの地でウイスキー造りを始めていたのです。
で、あるじがこのマルスウイスキーと出会ったのは今から30年ほど前、長野県にマルスウイスキー信州工場というのがあり、そこで造られているウイスキーを頂いた時でした。
まあまだあるじもこの業界に入ってそんな何年も経っていない頃で、こんな蒸溜所がありこんなウイスキーがあるんだ~!というのが最初ですね。
それからマルスの信州工場は1992年に休止、日本のウイスキー需要も右肩下がりでウイスキーが今現在こんなに盛り上がるとは・・・って感じですが、いい意味ではそのお陰といっていいのか?マルスウイスキーも創業の地鹿児島にウイスキーの蒸溜所を復活させて、今回はその復活した蒸溜所を見学させてもらいました。
ちなみにマルス津貫蒸溜所、蒸溜所見学は予約なくても見学出来るそうですが、メール及びFAXで予約を入れておく方がスムーズに見学が出来ると思います。
という訳であるじも予約を入れて伺いました。
それと見学料は無料です。
そしてあるじは蒸溜所の方に案内をして貰いましたが、基本見学は受付けさえすれば自由に出来るそうです。
また蒸溜所の隣りに「寶常(ほうじょう)」という本坊家の旧邸があり、そこでは有料になりますがマルスウイスキーを味わえるBARがあり、そしてオリジナルグッズや酒類を販売しているショップもあります。
なのであるじは車で行きましたが、もし皆さんが行かれるのならバスを使われる方が試飲も出来ますので、その方が良いんじゃないかと思います。
何しろ現在のウイスキーブームも手伝ってかなかなか飲めないマルスウイスキーが、ここでは結構飲めるようになっていました。
実際あるじのヨメは結構色々と楽しませてもらってましたからね・・・
という訳で、マルス津貫蒸溜所の見学についてはこちら本坊酒造マルス津貫蒸溜所・工場見学のページをご覧下さい。
で、見学ですが、見学についてはまた後日・・・

Ileach Calendar (イーラハ・カレンダー) 2021

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2020年も後ひと月弱、そろそろ皆さんも来年のカレンダーをご用意されたと思いますが、スコットランドアイラ島のローカル・コミュニティ・ペーパー Ileach(イーラハ)でもカレンダーを作り、その写真を紹介してくれています。
蒸溜所の写真は殆んど無くアイラ島の風景が中心ですが、素敵な写真ばかりなので皆さんも是非ご覧下さい。
そしてスコットランドを訪れることが出来るようになったら是非足を運んで、そして自分の目でアイラ島の素晴らしい景色を見て、アイラモルトを楽しんで頂ければと思います。

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1月
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2月
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3月
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4月
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5月
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6月
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7月
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8月
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9月
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10月
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11月
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12月
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2022年1月

鹿児島蒸溜所巡り ~4~

f:id:barvirgo:20201102103243j:plain:right:w380さて、蒸溜所の見学といえばやはりここ、スティルハウス(蒸溜室)ですよね~!
どの工程も大事なのは分かっているんですが、スティルハウスに入ると上がります。
特に嘉之助蒸溜所ではポットスティルが3基、組み合わせることで色々な原酒の造り分けが出来るのです。
またノンピート麦芽、ピーテッド麦芽、またその組み合わせなど、まだまだ新しい蒸溜所で色々と蒸溜も試しているそうです。
とはいえ基本は2回蒸溜、一番左の初溜釜にアルコール度数約7%のウォート(麦汁)5,600リットルを張り込み、1回目の蒸溜でアルコール度数約20%のローワイン(初溜液)が2,200リットル程度になるそうです。
そして2回目の蒸溜、1回目の蒸溜で得られたローワインの約2/3を真ん中のポットスティルに、そして残りの1/3を右端のポットスティルに張り込んで行なっているそうです。
そうすることによって香味など2回の蒸溜でも違った成分のニューメーク(ニューポット)を得られるようにしているそうです。
また真ん中のポットスティルにもサイトグラス(覗き窓)が付けてあり、初溜が出来るので少量の蒸溜を行なう時などは真ん中で最初の蒸溜を行なっているそうです。
それにポットスティルが3基あるので当然って訳でもないのでしょが、3回蒸溜を行なう時もあるそうです。
それで最終的に得られるニューメークはアルコール度数で69度、容量的には620~630リットルほどで初溜の張り込み量が5,600リットルだった訳ですから最初のウォートからすると約11%程度まで減ってしまっているんですよね。
で、それを加水してアルコール度数63%にして樽に詰めるのだそうです。
あと興味深かったのは蒸溜時の冷却方法で、この時初めて知ったのですが、焼酎の蒸溜というのはワームタブ(蛇管式)を使うのが当たり前で、ここ嘉之助でもワームタブを使用していたって事です。
実際スコットランドでもワームタブを使用している蒸溜所は幾つかありますが、現在の主流はシェル&チューブ式のコンデンサーなので、こうした点も面白いなと思いました。
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そして最後は蒸溜所併設の熟成庫で熟成樽の説明を聞き、あるじは車を運転しているのでヨメだけテイスティングをさせて頂き、嘉之助蒸溜所の見学を終えたのでした。
ただ実際にはもっともっとたくさんのことをお伺いしているので、ここでももう少し詳細に紹介出来ればと思ったのですが、だいぶ記憶力が悪くなってしまったあるじ、この程度しか紹介出来なかったので是非皆さんにも鹿児島へ行って嘉之助蒸溜所、見学して頂きたいと思います。

鹿児島蒸溜所巡り ~3~

f:id:barvirgo:20201102101918j:plain:right:w380さて嘉之助蒸溜所、製造設備は全て三宅製作所、国内のメーカーです。
ウイスキー造りの蒸溜設備、本場スコットランドフォーサイスなどのメーカーもありますが、嘉之助では今まで行なっていた焼酎造りの技術が生かせ、かつ設備に関してこうして欲しいなどの細かいニュアンスを伝えられる日本のメーカーの方が良いと判断し、全てを三宅製作所にしたそうです。
それで製造、嘉之助蒸溜所のミリング(麦芽粉砕)部分は壁の向こう側と言われ残念ながら見られませんでした。
なのでマッシング(糖化工程)から、右の写真がマッシュタン(糖化槽)の中を覗いた写真、糖化が終わったところでドラフ(麦芽かす)が残っているのが見られました。
ここでは得られる麦汁は5,600リッター、糖度は約20%だそうです。
ちなみにマッシングの際投入されるお湯は3回で、1回目が69度、2回目が70~71度、そして3回目が85度だそうです。
ただ、他の多くの蒸溜所が3回目のお湯は次のマッシングの1回目に使用するところ、嘉之助では取りきり、全てウォッシュバック(発酵槽)にまわしているそうです。
これは静岡蒸溜所と同じような理由で、3番麦汁を溜めておくタンクを置く場所がないからだそうです。
但しこれはイースト(酵母)タンクを動かすなどすれば場所を作ることは出来るそうで、今後どうするか検討中だそうです。
f:id:barvirgo:20201102102755j:plain:left:w380そして発酵工程に、写真の床から顔を出しているのがウォッシュバック、木製ではなくステンレス製を使用しています。
そして使っているイーストはアメリカのMWやスコットランドのピナクルなどまだ若い蒸溜所、色々試してもいるそうです。
で、発酵にかかる期間は約5日、アルコール度数約7%の麦汁が得られるそうです。
またウォッシュバックがステンレスで木製のウォッシュバックのような乳酸発酵は起こらないので、今後ウォッシュバックの中に木材を入れて乳酸発酵が出来ないか、そんなことも試そうと考えているとの事で面白いなと思いました。
これからの蒸溜所なんだから本当に色々と試さないとね!
という訳で今回は発酵まで、蒸溜からはまた後日書きます。

鹿児島蒸溜所巡り ~2~

f:id:barvirgo:20201102100619j:plain:right:w380さて、それでは嘉之助蒸溜所の見学です。
嘉之助蒸溜所は現在コの字型の建物になっていて、コの字の奥がレセプション、受付やショップになっています。
なのでまずはそこで受付をします。
それから見学がスタート、いったん建物の外に出て正面左側のコの字の先端で蒸溜所の概要について伺います。
なぜ嘉之助蒸溜所というの名前なのか?どうしてこの場所に在るのか?などですが、このあたりの話はここでは省略して、あるじが関心を持ったのは、嘉之助蒸溜所が当初は小正醸造芋焼酎造りの合い間に生産するつもりで、コの字の真ん中部分にはボトリングホールを建てる予定でいたのをウイスキー需要の多さから、生産自体も昨年から通年で行なう方向へ舵を切り、そうなると現在の蒸溜所では手狭になるのと小正の本業の場・日置焼酎蔵でもウイスキーの製造免許を取ったそうで、ボトリングはそちらの焼酎蔵でやることにしたというのと、焼酎蔵の方でグレーンウイスキーの製造を始めたって事です。
モルトもグレーンも造るのですから完全自社のブレンデッドウイスキーが造れるという事で、これはクラフトウイスキーの雄・秩父蒸溜所でもやっていないので将来楽しみと思いました。
ということでコの字の真ん中には追加の貯蔵庫やタンクが何れ設置されるとの事です。
そんな現在の状況等を伺った後は蒸溜所内に入ります。
蒸溜所内に入ってからもまずは小正醸造の歴史や蒸溜所の名前にもなっている小正醸造の2代目、小正嘉之助氏が米焼酎を樽で熟成させて造った「メローコヅル」の話など伺います。
この樽で熟成させる米焼酎「メローコヅル」が、今の嘉之助のウイスキー造りに繋がっていくっていうのはちょっと感慨深いものがあるなと思いました。
またウイスキー造りに挑戦することを決めた時の苦労や、あるじ的にはウイスキー造りを学んだのがスコットランドのストラスアーン蒸溜所だったというのもとても興味深くやはり実際に足を運んで見て聞かないと駄目だなと思いました。
そして現在の製造について伺います。
現在は1日1トンのモルトを仕込んでいるそうです。
使用しているモルトは英国産で、メインはマントン社というモルトスター(製麦会社)で、その他にクリスプ社、また現在コロナの影響でモルトの入荷が遅れたりと安定しないのでリスクヘッジもあり、ポールズモルト社やベアーズ社などからも仕入れているそうです。
また現在は11ヶ月の稼動で今年から8月の1ヶ月がメンテナンス、そして9月から1ヵ月半ほどピーテッドを仕込んだそうで、その際使用したピーテッドモルトシンプソンズ社製なのだそうです。
メンテナンス後にピーテッドを仕込むのはと思いましたが、その後話を聞くと色々と納得の理由があり、それはここで書くと長くなるので興味のある方は是非嘉之助蒸溜所へ訪れ伺ってみてください。
そしてここから製造の本番、ですがまた長くなってしまうので続きはまた後日書かせて頂きます。